指の関節の名前
まず、手指の関節の専門的な呼び方を図示します。指先に近い関節から遠位指節骨間関節(Distal Inter Phalangeal、DIP関節)、その次は近位指節骨間関節(Proximal Inter Phalangeal, PIP関節) と呼びます。そして指の根っこ、手のひらのに近いところを中手骨指節骨間関節(Metacarpo Phalangeal、MP関節)と呼びます。拇指は関節が少ないので、IP関節とMP関節、手首の付け根を手根中手骨間関節(Carpo Metacarpal, CM関節)と呼びます。
関節は外傷や、リウマチ、痛風などの炎症性病変がなくても、経年的に自然と軟骨の変性から始まり関節が痛んでくる病態があります。退行性病変と表現しますが簡潔に言うと加齢性変化です。靭帯のゆるみなどが合併し軟骨がすり減り、関節が変形してくる状態で変形性関節症(Osteo Arthritis, OA)と呼びます。手のDIP関節の変形性関節症(OA)をへバーデン結節(Heberden’s nodes)と呼び更年期以降の女性に多発します。PIP 関節のOAはへバーデンよりは頻度が少ないですが、ブシャール結節(Burchard nodes)と呼ばれ、やはり中年以降の女性に多発します。MP関節のOAはほとんど見られません、拇指のCM関節は手指の中で最も負荷のかかる関節なので、加齢に伴いOAが発生します。拇指CM関節症と呼ばれます。手首の痛みで稀ですが、拇指CM関節の中枢であるSTT関節の変形性関節症があります。
変形性関節症の病態
DIP関節は指の中で一番小さな関節なので、正常でもレントゲンでの関節の隙間は1mm以下です①。 ②では末節骨の骨硬化像と軽度の骨棘形成が見られ、関節裂隙は狭くなっています。外観でも少し変形が出だした初期で痛みもわずかです。③は関節の腫れがあり関節面の不整が見られ痛みが強い炎症期です。④は中節骨の骨嚢胞と骨棘形成が強く、40‐65度の可動域で痛みも強い。⑤は末節骨の片側の骨侵食により関節が横に傾く変形が強いが痛みは治まっている。⑥は側面で骨棘形成が強く可動域はごくわずかとなり、痛みは治まっている。
左の小指は初期の状態で抑えると痛む程度。環指はミューカスチストが破れた跡があり、変形が目立ち始めた。中指と示指は中央の写真のように伸展が強く制限され、痛みも強く手術を希望された。右の小指は伸展障害が40度以上あり、スワンネック変形を呈してPIPの屈曲にスナッピングが起こる。
へバーデン結節の自然経過と治療法
痛みに関して
変形が軽度でも関節の腫脹があり変形の進行期には強い痛みを訴えことが多い。この時期には関節を動かさなくても痛む(自発痛)ことも多いようです。変形が進行すると、骨棘形成によりコブのように関節が飛び出して関節自体も破壊が強くなるため、DIP関節が曲がって伸びなくなり自発痛は軽快してくることもありますが、摘み動作などでは痛みがあります。
変形の進行
変形が始まると個人差がありますが、4~5年で変形が目立つようになります。ほとんどの場合すべての指に変形は起こります。変形の進行を止めることを希望されて来院する患者様が多いのですが、 残念ながら簡単に予防することは困難です。関節が伸びなくなるのとは別に横に曲がってくることがあり、外観的にもストレスとなることが多くなります。手指へのストレスを少なくすることにより変形の進行を遅れさせることは期待できますが、テーピングや装具の予防効果のエビデンスはありません。
治療方法の概略
痛みのコントロールには抗炎症剤の内服と外用薬で多少の効果はありますが、長期的にはあまり期待できません。痛みが強く関節の腫脹がある場合にはステロイドの関節内注射が一時的には 効果があります。テーピングや装具による局所の固定は、痛みのコントロールには効果的です。 へバーデン結節用のテーピングも多種販売されていますが、1日に何度も貼り替えたり水の使用 が困難なことも欠点です。へバーデンリングというスズ製のリングは、取り外しも簡単で側方動揺性には進行予防も期待できるので希望される患者様が増えています。 女性ホルモンの関与も指摘され、構造の似たサプリメントの効果が期待されています。実際の予防的効果には懐疑的な意見が多いのですが、精神的な要素も加味されてか、良くなった気がしますと聞かされることがあります。
最後に手術療法は、ミューカスチストは早急に処置が必要です。関節の出っ張りだけを切除では、痛みは無くならず変形も再発します。関節固定術は痛みが無くなり、指がまっすぐに戻すことが可能です。曲がってしまうまで長い期間痛い関節を眺め続けるよりDIP関節の固定術は効果的で、実際に両手、他指の追加手術の希望例は除痛効果と外観の改善に満足された結果でしょう。手術療法の詳細は次の項を参照ください。
ブシャール結節の自然経過と治療法
PIPの人工指関節置換術
骨セメントを使用しないPIPの人工指関節手術は現在約20年の歴史だが、 中・長期治療成績の良好な報告が国内外でも発表され、ブシャール結節の治療として脚光を浴びている。
拇指CM関節症とSTT関節症
ブシャール結節の人工関節術
50前半の女性、左手環指のブシャール結節が進行し痛みと可動域制限が強く、掌側アプローチで人工指関節置換術を行った。術後12年の長期経過で来院された。へバーデン結節によりDIP関節の屈曲が制限されているが、PIP関節は痛みなく伸展が5~7度程度制限屈曲は95度と極めて良好な可動域が維持され、レントゲンでも人工関節の破損や緩みを認めない。
リウマチ尺側偏位に対する人工関節手術
40代前半の女性両手のMP関節の完全掌側脱臼を伴う尺側偏位と指のボタン穴変形に対して、左手MP関節の人工指関節置換術を施行。右端は術後のレントゲン、拇指~小指の形成術も施行。
リウマチによる中指強度屈曲拘縮に対する人工関節手術
右中指が90度屈曲位から伸展不能となり皮膚性拘縮も進行したため、創外固定器を使用し、掌側皮膚形成でPIP関節の他動伸展を獲得してから人工指関節置換術を施行、現在術後1年で良好な伸展。
リウマチによる中指スワンネック変形に対する人工関節手術
70代の女性リウマチによる進行した中指のスワンネック変形、屈曲は不能で側方動揺性も認めた。人工指関節置換術と靭帯縫縮により変形は強制され、良好な可動域を獲得できた。