ボタン穴変形とは?
PIP関節の伸展障害による屈曲位とDIP関節の過伸展を呈する状態をボタン穴変形と呼び、写真のように変形の軽度なものから進行するとPIP関節が90度以上曲がったまま伸びなくなりDIP関節も曲がらなくなります。DIP関節の屈曲障害があるとpulp pinchは可能でもtip pinchは困難となり、細かい物の摘み動作が障害される。PIP関節の伸展障害も高度(約60°以上)となると洗顔や大きな物の把持動作などが障害されます。
ボタン穴変形の初期(左上)、PIPの腫脹が著しいがDIPの屈曲は可能(左下)、PIPは90度で固まり、他動的にも伸びない、DIP関節も屈曲できない(右上)、PIP関節が90°以上屈曲し脱臼、DIPの過伸展も強度(右下)。
ボタン穴変形の発生機序
ボタン穴変形の治療
保存的療法
変形の初期で関節破壊がほとんどなければ、ステロイドの関節内注射を併用しPIP関節の可及的伸展位での固定とDIP関節の屈曲を励行する。PIP関節を伸展位で十分な期間保つことにより中央索は短縮し、DIPの屈曲により掌側に偏移していた側索が背側にもどされる。
手術適応
PIP関節の腫脹が強く、ステロイドの関節内注射が無効な場合は関節破壊を予防する意味でも積極的に滑膜切除を勧める。この際、PIP関節の伸展障害が軽度(20°前後)な場合は、伸筋腱の再建を行わず、術後に装具療法を行う。中等度の変形(30°<PIP<-75°)以上で関節破壊のない症例では伸筋腱を再建しPIP関節の可動性を温存する。PIP関節が90°以上屈曲し、ADL障害を伴う高度な変形や関節破壊のある症例では、PIP関節の関節固定(軽度屈曲位で)か人工関節が適応となる。
20代の女性、ステロイドの関節内注射後も中指PIP関節の腫脹が持続した。両側の横切開で滑膜切除術のみ行う。レントゲンで変化を認めない早期であったが、膨隆した滑膜を認めた。術後はPIPは伸展位で固定し、DIPの屈曲を励行した。創の治癒後コイルスプリングによる装具(Capener splint)を使用。術後5年で変形なく、屈曲も良好。
やや進行した変形に対する変形矯正術
中等度(PIPの伸展障害が30度以上)の場合は伸張した伸筋腱の縫縮縫合と側掌側方向に転位した側索を中央に引き上げる術式(V-Y伸筋腱再建術)を図示します。
皮膚切開後、伸筋腱にV字切開を加えて中節骨付着部を基部とした三角状のフラップとしてPIP関節を展開し、滑膜切除を行う。三角フラップ状の伸筋腱を近位の切開部下部に引き込み5mm程度重ね合わせて縫合、dorsal retinacular ligamentも中央に重ね合わせて縫合することにより、側掌側方向に転位した側索を背側に引き上げることになります。Y字状の縫合よなり、縫合部も強固となります。
関節固定術
リウマチにより変形が進行したボタン穴変形では屈曲位で固まったPIP関節よりは軽度屈曲位で関節固定術を行った方が、外観と機能面共に改善する。特に示指では変形の程度によらず、結果が確実な関節固定術を推奨する教科書が多い。
40代前半女性の症例
30年以上前に経験した症例で、現在であれば、人工関節の選択肢もありますが、その時点では、示指だけに限局した変形であったこともあり、教科書通り関節固定術としました。PIP関節は、他動伸展も不可能な90度以上の屈曲位でほぼ固定した状態で、DIP関節も30度以上の過伸展から他動的屈曲も制限されていました(写真右赤矢印)。 PIP関節は皮膚拘縮もあり、保存的治療(手術以外で)では伸びることはないので、もう少し伸展位で固めることにより手掌が開くこと、摘み動作が改善することを説明し手術となりました。
背側からPIP関節の関節面を切除し約20度でワイヤーで固定、DIPの過伸展の原因となっている伸筋腱に横切開を加えて延長した。術後3か月の写真(中央)では、外観が改善しDIPも10度程度屈曲可能となり摘み動作が改善した。
50代女性、両側の著しいボタン穴変形
両側のPIP関節がすべて120度以上屈曲し外観の醜状より、手掌が開かないので、顔を洗えないなどの機能的障害も認めた。極端な屈曲位のために、側面のレントゲンでは、中節骨が基節骨に食い込んでいる状態なので人工指関節も当時(30年近く前)不可能と考えPIPの関節固定術を選択した。
右手は術後半年の状態、MP関節の動きは問題なく外観の改善と手のひらがひらいたので、術後3か月の時点では反対側も同様の手術を希望された。しかし、右手が自由に使える様になり家事を始めると、右手はペットボトルの把持や,手のひらで物を抑えたりすることができるようになったが包丁を握ることができないことに気づいた。結局、左手は手術せずに左右の手を上手く使い分けて使用できるようになったと、右手の手術結果には満足の評価をいただいた。私はリウマチ手指の手術に関する多くの講演の中で、この症例をしばしば提示して、“PIPの関節固定では全てを解決することはできない”ので何とか可動性を残せる術式、すなわち、PIPの人工関節の必要性を強調してきました。
伸筋腱移植術
PIP関節自体に関節破壊がない場合、PIPの伸展を目的とした腱移植術があります。伸筋腱の中央策に力源を求めず、両側の側索(手内筋)が基節骨に直接作用するような術式です。
強皮症に合併した示指のボタン穴変形
示指PIPの伸展が全く不能、他動的伸展も制限。 Fowler法で移植腱を緊張させて側索近位に縫合
強皮症では血行障害が問題となるので、関節外手術のFowler法を選択したが、掌側の皮膚延長も追加しPIP伸展位でワイヤーにより仮固定した。 術中に駆血帯を緩めて血流を確認できたが、きわどい選択であった。通常の固定術で得られる20度程度までの自動伸展と、75度の屈曲が獲得できた。
人工指関節置換術
ボタン穴変形が進行すると、PIP関節の屈曲拘縮が強くなり手の平が開かなくなります。他動的にも伸展不能で、レントゲンで関節軟骨の消失や関節破壊が生じると可動域を温存するためには人工関節置換術が必要となります。当院ではチタン製ステムとコバルトクローム合金の骨頭、高分子ポリエチレン樹脂のソケットで構成されるSelf Locking Finger Joinを使用しています。
【症例67才女性】